30日目

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#19 ―――islay side

 目の前で横になっていた少女が弾かれたように体を起こす。
 顔を覆う紫の長髪の間から、泳がす視線。
 周囲の認識に努めている。
 やがて傍に座るティナと、立つ私の姿を認め、視線を固定する。
 
 しばしの間隙。
 
#20 ―――tina side

 私たちの前で横になっていたその女の子が、急に体を起こす。
 戸惑の視線―――のように見える。女の子の顔は紫色の長い綺麗な髪で覆われていて、実際にはどんな表情をしているのか分からないからだ。
 辺りをキョロキョロと見回し、私と、(いつものように)胸をそらして立つ先生の姿を見止める。

 流れる沈黙。

「き……」

 女の子の顔が驚愕に満ち溢れる
 
「貴様らはッ!」

 叫びつつ、身に掛けられていた布―――私がかけたものだ―――を跳ね除けると、慌てて立とうとする。
 腰を上げたところで、足からガックリと膝をついた。

「あ、だめですよっ まだ寝ていないと!」

 メジウムを移植したばかりで体がついて行けていないのだから―――という言葉をぐっと飲み込む。

「大怪我をしていたんですから、もっと寝ていないと」

 苦しそうな顔をしていた女の子は、私の言葉にハっとした表情を見せ、体のあちこちを触り始める、
 怪我をしたという自覚はあるのだろう。次第に驚愕した様子となった。

「貴様ら…」

 女の子が呻くように声を搾り出す。
 そう、女の子だ。年の頃は…14,5だろうか。
 長い紫の髪。前髪が顔の半分を覆っている。髪が散る銀色の金属は、全身を覆う鎧。
 鎧とはいっても、あまり重々しいものではなく、胸や腰回りを守る程度―――先生曰く、ブリガンダインというものらしい―――のものである。
 鎧の下に着ている服のレースが目にも眩しい。そんな女の子だ。

「何故……私をた、助けた……ッ」

 そんな女の子が、苦しそうに言葉をひねり出す。

「だって」

 例え敵対する兵士であろうと。

「放っておけないじゃないですか」

 あんな大けがを負わせてしまって。助けられる時に、助けが必要な人を、助けない理由はない。

「く…ッ」

 女の子が立ち上がる。
 ふらつく体を抑えるように、両の足で地面を強く踏みつける。顔がゆがみ、汗がしたたり落ちている様子が見える。

「貴様らの世話には…ならんッ」

 うめくように言うと、一歩、一歩足を引きずるように歩みを進めていく。

「だめです、まだ横になっていないと!」

 そう言って近寄ろうとする私を、恐ろしい形相でにらみつける。思わず立ちすくむ。

「放っておけ」

 先生の声。

「でも…っ」

「どうせ、遠くまでは行けない」

 女の子は近くの林の方向へ足を進めていく。
 あ…そっちには。
 私の心に、別の部分の心配事が浮かび上がってきた。

「大丈夫でしょうか。あっちにはエリサさんたちが……」

「ふふ…」
 
 先生が含み笑いをする。また何か企んでいるのかな… 


 ―――突如

「キャアアアアアァァァッ!」

 ―――甲高い、悲鳴。
 さっきの女の子の…もの?

 私は先生と顔を見合わせる。僅かに険しくなる先生の表情。
 私に向かって、小さく頷く。


 地面を蹴って、私は女の子の方向へ駆けた。